2019.1.19 (土)

第5回

場所:メンバー阿部健一宅(東京都練馬区)

プライベートを語る、聞くこと

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今回のスタディは、メンバーの一人、阿部健一の自宅にて行った。祖父が建て、家族3代で暮らしてきた家だが、現在は阿部が引き継ぐようなかたちで暮らしている。東京に住み、制作を行っている阿部の活動をケーススタディに、「東京でつくる」について考えていく。

最寄り駅に集合したメンバーたちは、阿部の案内の元、近所の住宅地などを散策しながら家に向かった。阿部は「他人の家の話に、本当に興味あるのかな……」と疑問を呈しつつも家の紹介をしてくれる。「ざっくり言うと、僕は“東京村に残った長男坊”です。この家はいろんな人が通り過ぎて、部屋の用途も変わっていってる。自分の家なのに、なんでこうなっているのか分からないものがいっぱいあって。で、たまたま生まれた場所がここだったから、東京に出る必要がなかった人間だと思っています」。
しかし、そんな状況も変化し始めた。「この江古田にも東京が来た、って言い方をすると分かりにくいですけど、徐々にここにも都市化の波が来たんです。すると演劇関係の人が、もう東京にいる必要はないと言って地方へ拠点を移したりして。それに対して、村民意識として腹が立ったんですよ」。
阿部は地域を取材して、そこで聞いたエピソードを元に演劇作品をつくり、その地域で上演するプロジェクトを行っている。東京のローカルなエリアに向き合う取り組みだが、同時に具体性を超えて、どう外部と共有できるものにしていけるのかを考えているという。「ローカリティを扱っていて、その地域の人が喜んでくれるからOKだとすると、町内会の枠を出ないというか、自給自足になってしまう。村を越えて共有できる何かになれるのか、僕が東京村の長男坊だけではない何かになれるのかというのが、改めて考えていることです」。

そんな話を受けて、後半はディスカッションを行った。皆で話したいこと、自分が話したいことをそれぞれ挙げていったが、メンバーの高須賀真之は「今日のお話で、自分のプライベートなことをここまで喋れるんだなと思って。僕は批評的な感じでエッセイを書いていて、そういう書き方だと、いくらでも書けるんです。でも、だんだんと自分のことを掘り下げて書いてみようかとも考えるようになりました」と語った。そのきっかけは11月のゲストのイシワタマリさんのエッセイを読んだことと、12月に石神夏希が行っている「東京ステイ」のピルグリムというまち歩きに参加したことだという。特に、ピルグリムに参加した際、一緒に参加したかったけれどここにはいない人に向けて手紙を書くことになり、どこまで自分のプライベートなことを人が共有できるのか、そもそも喋ってもいいのかと考えたそうだ。
それに対して阿部は「プレゼンみたいに、人を説得したいみたいなこととは全然違うと思った」と応答。石神は、「パーソナルな話を聞くことは、その話の面白さを問うのではなくて、話と、その話してる人がどんな関係であるのかを見ているということ。今日も阿部さんが家のことを語るのをみんなで見に来ている。だから内容に答えが出なくても全然よくて。考えている、語ろうとしている阿部さんを見ることで、自分はどうだろうと考えることに意味があるし、面白いと思っている」と言い、さらにプライベートなものを出す行為と作品づくりという観点で、このように続けた。
「この話が自分にとってどれだけ大事なのかを言語化したり、相対化したり、自分の中で対象化したところから、その上でもう一度客観視をして、どこを出していくか、どのように出していくかというプロセスを経ないと、作品をつくることはなかなかできないと思う。だから、つくり手がまるで自分のプライベートを見せているように見えても、それはパフォーマンスでしかなかったりして。その手前の、固まっていないものを出すのがとても怖いというのは、よく分かります」。
一方、メンバーからはプライベートなものを出すと、関係する誰かに迷惑がかかるかもしれないと考え、躊躇してしまうという意見もあった。

また、東京を離れる人もいるという状況を受け、「東京は終わっていくものだと思うか?」と石神から問いかけがあった。これについて、「東京が元気なときと、元気じゃないときがあるとしたら、元気じゃないときを考えてたい」「東京が一つではない感じがした。死にそうな町もあれば若い町もあったりする。そういうふうに全体で新陳代謝が行われてればいい」という声も。
メンバーの石井美加は「都市が死ぬというのはどういうことなのかと考えたりします。“死”や“看取る”みたいなことをタブーにしないで普通に扱うのが健全なのかなと。東京という都市が自殺しないための方法を考えるには演劇がいいのではないかと思いました」と言った。

この日は編集者の和田安代さんも同席しており、スタディ期間終了後にこれまで書いてきたエッセイをまとめたエッセイ集を発行する旨の説明があった。石神が過去に自分で書いたエッセイに後々自分自身が救われたことがあったというエピソードも交えながら、今回つくるエッセイ集がメンバーにとって、そういう存在になったらいいなと思うと伝えられた。
加えて、2月に報告会にある報告会について相談を行い、この日は終了した。

Text=嘉原妙

関連資料

第5回についてのお知らせメール
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差出人:石神夏希

2019年1月17日(木)

件名:第5回についてのお知らせメール

皆さま

こんばんは。
前回の映像ワークショップは、年末だったのですね。。
なんだかもっと前のような気がします。
お元気ですか?

直前のご連絡となり恐縮ですが、
今週末1/19(土)13〜17時の会場は、3331 Arts Chiyodaではありません。
練馬にある、メンバーの阿部健一さんのご自宅へお邪魔します。

この日は3331が使えない、というのが事の発端でしたが、
せっかくなら興味深いフィールドに出かけたいと思い、
我々の仲間で「東京でつくる」を実践している現在進行形の「現場」に
お邪魔させていただくことしました。
(阿部さん、ありがとうございます!)

▼集合
・時間:12時50分
・場所:東京メトロ有楽町線・副都心線「小竹向原駅」2番出口地上

▼注意
・会場が少し寒いので、暖かい格好でお越しください。
・民家です。靴を脱いで上がり、床座で話すことになるかと思います。
 服装や足元など、ご自身の過ごしやすい格好でお越しください。
・飲み物などは、適宜ご持参ください。

当日は、お家のお話や、阿部さんの演劇活動についても紹介いただきます。
阿部さんのお話をひとつのケーススタディとして出発点にしながら
明日はメンバー同士で「東京でつくる」の現在地をもう一度確認し
じっくり話す回にしたいと思っています。

編集の和田安代さんもいらっしゃって
成果物(エッセイ集)や最終発表の形についても
ご相談することになりますので、どうぞよろしくお願いします!

第5回についての振り返りメール
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差出人:石神夏希

2019年1月19日(土)

件名:第5回についての振り返りメール

皆さま

今日はフィールドワーク、おつかれさまでした!

>阿部さん
「ケーススタディ」として惜しげもなく個人的背景を共有して頂き、
お家までお邪魔させていただいて、本当にありがとうございました。

今日の阿部さんのお話に関連して、東京生まれ・育ちの
ジェーン・スーさんの記事をいくつか共有させていただきます。
皆さんの振り返り・執筆のご参考になれば幸いです。
http://janesuisjapanese.blogspot.com/2013/08/vol13.html
http://bunshun.jp/articles/-/3240

引き続き、どうぞよろしくお願いします。