2020.10.31 (土) 〜 11.7 (土)

第6回

場所:アーツカウンシル東京

一方的に音を受け取る“手段”を考える

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アーティストの大和田俊さんをゲストに招いたワークショップは、週を跨いで連続する2回の土曜日に行われました。

1日目は大和田さんの活動紹介レクチャーとワークショップのテーマの出題。
音を扱う作品を多くつくる大和田さんですが、良い音や綺麗な音を出すというよりも、音響機材や、音を伝える役割を果たす空気を、情報伝達の“あいだにあるもの(不純物)”と捉え、「音が鳴ったり聞こえたりすることそのものの背後に何があるのか」「私が聞こえている状態になるように、音が空気を伝わっていること」などを考えて制作活動を行っているそうです。
例えば、化石を含む石灰岩を溶かす際に発生する二酸化炭素の音を聞かせる《unearth》や《Paleo-Pacific》では、“あいだにあるもの”が空気や化石で、音で知覚できるものと、その背後にあるたくさんのこと(音が聞こえるためには化石が気体になっていること、化石という一度死んだものを成分ごとに分解して生きた痕跡をなくしていること、鑑賞者は作品から発生する二酸化炭素を吸っていると同時に自身の呼吸から二酸化炭素も発生させていることなど)の薄い境目が気になっているのだそうです。「音にピュアに向かうのではなく、背後にあるものに遡行していくことで、聞こえない生き物たちや、聞こえることの条件を考えている」と、知覚できるものに留まらない大和田さんの音に対する興味が共有されました。

そんな大和田さんから出されたワークショップのテーマは「ふたりで音を交換し、音を一方的に受け取る“手段”を考える」こと。これは、大和田さんの普段の作品制作の延長にあり、「答えも方法も僕にはわからないけど、僕が普段やっていることから抽出されたこの問いを、勝手に受け取って取り組んでみて欲しい」と大和田さん。
その後、抽象的なテーマに戸惑うスタディメンバーからの質問と大和田さんの応答を繰り返しながら「“一方的に”というのは暴力と自由の境目。僕と作品で扱う化石の関係は(化石が傷付いているかはわからないけど)構造的には暴力的である」「僕の作品はどちらかといえば二酸化炭素を出しているのに、パリで環境問題にアゲインストするための展示に作品を出して欲しいと言われた。作品がどう受け取られるかにも“一方的に”はあると思う」とワークショップのテーマを補足していったり、「まだ聞いたことがない音について考えると、何に使うかわからない触覚が、よくわからない音をもらって対処していくことで、生物としての状態が変わる」「音に対して誠実に尊重することもできるけど、無視することもできる」など、音の扱い方について考えを広げました。
1日目の最後には、くじ引きで音を交換する相手を決め、次回までに音の交換と受け取る手段への思考をめぐらせておくことになりました。

1週間後。最初に大和田さんから「作品と技術の二項対立でバランスがとれず“成立してない”という話がよくあるけれど、今日は“成立”ではなく、技術そのものを考えられるといい」という言葉から制作時間がスタート。約3時間が過ぎたところで、それぞれの音を受け取る手段を発表しました。

化粧水のスプレーが吹き出す音を受け取った藤城が発表したのは、バケツに張った水の中にスプレーの吹出口を沈め、吹き込むパフォーマンス。水中に沈めることで、スプレーの吹き出す音が小さくなる一方、水泡を視覚で捉えることができます。さらに藤城自身は「スプレーが終わりに近づくと、手でもっていられないほど冷たくなって生き物っぽい。内容物を吐き出すことしかできず、使い切ると死ぬ生き物みたい」と、音を受け取っている当事者しかわからない感覚を得ていたそうです。

多国籍の言語が飛び交う飲食店の音を受け取った野口は、「知らない言語は音としてしか認識できず、日本語が流れると意味がわかる状態が、絶対音感をもっている私がすべてを音階で認識してしまう状況と似ていると思い、みんなにも体感して欲しいと思った」ことから制作した曲を披露。何も知らされないと初めて聞く曲ですが、その音楽はあるテレビCM曲のメロディをアレンジしたものだと知らされると、誰もが聞き慣れたその曲としてしか認識できなくなりました。
ほかにも交換した「音」をきっかけとして、パフォーマンス、筋トレ、音楽、映像、日記、展示など、さまざまな音を受け取る手段が発表されました。

最後に「全員が音について違う手法をとったことがおもしろいし、それが普通でもある。日常に戻ったとき、みんな、生物としての状態が変わって音を聞いていると思います」「みんなが今回、僕には答えも方法もわからない問いに答えられていることが不思議でした」と大和田さん。スタディメンバーも次回の振り返り回までに、今回のワークショップでつくったものを通して得た“問い”を抽出してみることになりました。

Text=堀切梨奈子
Photo=冨田了平