2018.12.19(木)

第6回

場所:みどり荘

広告から公共へ音楽を展開する

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「音楽」が仕事となるフィールドは広く、個人的な表現からビジネスの領域まで多岐に渡っている。今回は「広告表現における音楽の可能性」をテーマに掲げ、クリエイティブスタジオJKD Collectiveの代表取締役、ブルース・イケダさんをゲストに迎え、現在の活動と今後の広告と音楽の関わりについて話を伺った。

JKD Collectiveはブランドムービーなどの映像コンテンツと、音楽制作に特化したクリエイティブスタジオである。「広告マーケティングのフィールドで仕事をしていますが、そのなかでもかなりオルタナティブな立ち位置にいます」と自身を説明するブルースさんは、広告マーケティングの世界が現在「デジタルマーケティング」と「ブランデッドコンテンツ」の2つに分かれているという。前者はウェブの検索エンジンやSNSなどを活用して、個人の属性を解析し、ターゲット広告を打つもの。一方後者は従来の広告とは違う形で商品、ブランド、企業イメージを高めていくコンテンツだ。ブルースさんはこのブランデッドコンテンツをさまざまなクライアント、クリエイターとディスカッションをしながら制作しているが、音楽制作(ミュージックコンポーザー)と映像制作(ビジュアリスト)でチームを組み、ミュージックビデオの形でアウトプットする「ブランデッドミュージックビデオ」、あるいはインスタレーション、イベントなどの「ブランデッドミュージックエクスペリエンス」をつくることが主だという。

そんなブルースさんのキャリアの転換点はWieden+Kennedy (ワイデン・アンド・ケネディ、以下W+K)に入社したこと。W+Kは1982年にアメリカのオレゴン州ポートランドで立ち上がり、現在では世界最大級となった独立系クリエイティブエージェンシー。1998年にW+K Tokyoが設立された際、ブルースさんは当時W+KがつくっていたテレビCMに強い衝撃を受け、ここで仕事がしたいと門を叩いて入った。「クリエイティブに対するこだわり、スタイルはいまも受け継いでいます」とい語り、W+KのクリエイティブDNAとして、チーム内の政治などを払拭して作品第一主義で制作する「work comes first / no politics」、とにかくシンプルに考えて重要なエッセンスをあぶりだし戦略的にアプローチをする「simplicity / strategy」、カルチャーの中心に飛び込んでプレイヤーとしてやっていく「culture insider」を挙げた。
ここで当時ブルースさんが手掛けた映像を実際に何本か見てみることに。日本語ラップやクラブシーンのDJたちと組んでつくったNIKEのCMなどを流しながら、その舞台裏を語り、音楽と映像のコンテンツレーベル「W+K東京LAB」で高木正勝やHIFANAなどリリースを行った経緯などを説明した。その頃はW+K東京LABのアーティストと広告制作をする際に組むアーティストを分けていたが、2008〜2009年にYouTubeが台頭してきたことでコンテンツの重要性があがり、ブランデッドコンテンツが立ち上がってくるなかで以前とは制作のあり方も変える必要が出てきた。そこで2010年に初めてW+K東京LABのアーティストであるHIFANAをNIKEの広告に起用し、1週間で50万ビューほどの成果をあげたと振り返る。
そのような流れのあと、JKD Collectiveを立ち上げたのが2012年。現在はイベント会場や店頭などに設置するインスタレーションの仕事が増えてきたというブルースさん。「良質なコンテンツを制作したい」と強調するように、国内ではあまり知られていないけれど海外では人気のあるミュージシャンと組んだり、若手のユーザー離れを嘆くブランドの仕事ではラッパーたちを起用して訴えたい層にヒットさせたりといった展開を見せている。

ブルースさんは現在、イギリスを代表するメディアセンター『ウォーターシェッド』によるプロデューサー育成プログラム「クリエイティブ・プロデューサー・インターナショナル」に参加。これからは「公共の場で上質な音楽を体験する機会を増やしたい」といい、2017年から2年にわたって、まちの変革につながるプロジェクトに取り組んでいる。まずはリサーチを行い、「将来的にはオーディオビジュアルの大博覧会になるような都市型フェスをひらきたい」と意気込む。
W+Kから学んだことの一つとして「キャッチー・アンド・コア」があり、誰が見てもいいと思う(キャッチー)けど、実はすごくコアなものをこれからもつくっていきたいというブルースさん。広告というメディアから公共へと移ろいながら、自身の仕事の中心に据えているものは変わらずにあるということが感じられる話だった。

Text=高橋創一