2019.10.26(土)

第6回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

デザインリサーチのアプローチを学ぶ

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10月26日、第6回となるスタディ3は水野大二郎先生をゲストに迎えた。スタディ前半は水野先生が「デザインリサーチ」についてのレクチャーを行い、後半はナビゲーター大橋と水野先生が協働して制作した映像『Transition』を一同鑑賞し、ディスカッションを行った。

デザインリサーチは、個別具体的なものを対象に行われる設計のプロセスや、その際に生まれる創造性を研究の対象として取り出し、分析するという学問分野である。デザイナーの設計プロセスを体系化することからはじまったが、より良いものをつくるためには、デザイナーが試作品をつくり、議論を重ねる必要があることがわかってきた。試作品をつくるにあたり、デザイナーがユーザーのニーズを適切に把握するため、ユーザーを調査することが求められる。そこで、文化人類学的調査法(エスノグラフィー)を用いて調査がおこなわれるが、デザインにはスピードも求められるため、現在は、民族誌的な調査方法に準拠しながらも、より短時間でおこなえるよう、デザインリサーチ独自の調査方法を展開している。デザインリサーチは現在、この独自の調査方法、デザインリサーチツール/メゾットとして、一般的に「ユーザーを素早く理解するためのデザイン方法論」として知られている。

デザインリサーチにおける調査では、調査協力者の生活世界の説明や、他の調査者の成果を解釈する(問いかける)ことがとても大切で、写真でとらえたものが何で、どういう意味があるのかを注釈できる力が求められる。しかし、目の前の〈あたりまえ〉を問い直すのは難しい。その難しさを少しでも解消するため、デザインリサーチによって「50の問い」という、ツールが開発された。こうしたツール化は、デザインリサーチとエスノグラフィーとの違いであり、ツールを開発することによって、うまく、早く、面白く調査を進めていくことを目指す。デザインリサーチは、ただ理解することではなく、そこから新しいデザインを生み出すための想像力を促進するために用いられている。

デザインリサーチの独自の調査手法には、他にも「人工物に注釈をつけていく分析方法(Artifact Analysis)」や「カルチュラル・プローブ(Cultural Probe)」がある。また、近年はデザインリサーチの新しいアプローチとして、ビデオを用いてユーザーのストーリーを説明していく「デザイン・ドキュメンタリーズ(Design Documentaries)」と呼ばれるものがある。調査者とユーザーの関係性を写しながら、ユーザーの生活世界を切り取るという、ドキュメンタリー映像の手法による影響も受けている。

水野先生は、カメラを用いて調査をする際に、調査協力者の身体特性に応じて撮影の仕方を考える重要性を語る。例えば、聴覚障害者に焦点をあてた『In the Land of the Deaf』(Nicolas Philibert, 1992)というドキュメンタリーでは、手話を中心としたコミュニケーションをおこなう調査協力者に対して、ただ撮影をするのみならず、より調査協力者を理解するための撮影方法を考えることの重要性を示唆している。他に身体的特徴をふまえて生活世界を観察し、映像をうまく使った事例として『MOVING STORIES』(Design Academy Eindhoven, 2014)が紹介された。また、リサーチ方法は他にも『Super Size Me』(McDonalds documentary, 2004) や『電波少年的懸賞生活』(日本テレビ、1998-1999)など、自分自身を研究対象にするものも考えられるという。水野先生は、自分自身を対象にするからこそできるようなことがあると語り、オートエスノグラフィーと映像と考現学を組み合わせるなど、他にもいろいろなやり方を試すことを勧めた。

後半に上映を行った『Transition』は、水野先生が、妻のみえさんが妊娠中に病気と診断されたことをきっかけに、2年間撮影し続けた生活記録をもとにつくられたドキュメンタリー映像作品である。

2017年5月、臨月に入ったみえさんの体調が思わしくなく、検査を経て胃がんが発覚。そこから丸2年間の生活を、水野先生は映像や写真を用いてほぼ毎日記録を続けた。主な記録ツールとして使っていたのはiPhone7。スマートフォンはスケールが小さく、その利用は電話を前提としていることや、みんなが当たり前に持っているものであることから、周囲に圧迫感を与えずに撮影できたという。
2018年7月から大橋と水野先生による協働がはじまった。ほぼ毎週インタビューを行い、写真・映像データや日記から水野先生の生活世界の文脈を理解するための調査に取り掛かりはじめた。みえさんとのLINEの会話内容をはじめとする、携帯やパソコンのデータには、食べたいものや行きたいお店などについてのやりとりの痕跡が残っていた。水野先生はこれに対して「みえさんは、自分が病気で動けなくなってしまった代わりに、ソーシャルメディア上で旅することを夢想していたのかもしれない」と振り返った。また、水野先生自身は、みえさんの闘病中、大学-病院-家といった点から点への移動をくり返す生活を続けていた。家族をとりまく〈移動〉、そしてタイトルにもなっている、生活の〈移行〉にフォーカスされた、家族の関係性、水野先生とみえさん、息子の照くんの生きざまが、映像を通じてひしひしと伝わってくる。

上映中、心を動かされ、涙を流す参加者も見られた。はじめに、どうしてこのような記録をしようと考えたのか、という質問が上がった。水野先生が自身の生活世界の記録をはじめたきっかけは、みえさんの病気のことを調べるうちに、〈もしも〉の状況を想定するようになったからだった。生まれてくる子供に母親のことを伝えるために、たくさんデータを残そうと考えた。水野先生は、自身の体験を通じて、病も生活も、「すべての問題は解決できる」というような考え方から撤退し、複雑な問題とどう向き合い、少しずつ前に進んでいくかを考えていきたいと語った。記録をはじめたのは、簡単に解決案を出すのではなく、複雑な問題と長く付き合う方法を考えるためでもあるのだ。

それぞれの映像をどんな思いで撮影したか、という質問も上がった。『Transition』は水野先生の撮影した映像が中心に使われている。撮影時には、後から他の人にも見られる記録であることを意識している部分もあったが、何をどのように撮るかについて明確なルールを決めているわけではなかった。大橋とのインタビューセッションのなかで、概念的なテーマの中心として「移動と移行」を見出して、情報世界/心的世界に関わらず、自分にとって「移動や移行」だと考えた対象に特に注目していたという。

また、映像作品の制作方法に関して、自分の祖父を調査したいと考えていた参加者は、祖父に自分自身に関して記録をしてほしいと考えていたが、それが負担になるかどうかが心配だという。それに対して水野先生と大橋は「今まで記録をする習慣がない人にとってはハードルが高いかもしれない。調査者が日々祖父とビデオ通話してみるなど、協働的な記録方法を模索すると良いのでは」とアドバイスを送った。調査のどの時点から映像制作を意識していたか、という問いも、これから調査を始める参加者にとっては大切なテーマであった。必ずしも最初から映像作品のはっきりとした完成形を念頭に調査を行っていたわけではなく、『Transition』では調査期間の終盤に編集方法を決定したという。語りのない映像に仕上げたのは、日々の記録が持つ連続性の圧倒的な力を活かすためだ。
筆者にとって印象的だったのは、大橋の「自分ではいろいろなことが気になって(撮影が)ほとんどできなかった。この生活記録は、先生とみえさんとの関係性のなかでしかできなかったことだ」という言葉だった。病院で水野先生とみえさんの姿を映像に収めることにためらいを感じたという大橋は、リサーチをする上で、調査者と調査協力者の関係性の繊細さを改めて語った。今回のスタディは、映像表現を中心としている。しかし、調査協力者との関係性や表現したいものによっては、必ずしも「映像」というかたちでなくても良いのである。大切なのは協働作業のなかで、お互いが納得するような表現方法を模索するそのプロセスだろう。

Text=染谷めい(執筆)/森部綾子(構成)