2019.11.16(土)

第8回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

それぞれのフィールドへ向かう

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第8回となる今回のスタディは、参加者のプロジェクトの進捗についての個人面談の時間となった。すでに調査に入っている参加者がいる一方で、まだ調査に踏み込めていない参加者もいた。なかには、個人面談の前後をリサーチの時間として利用し、「ワクワクしています!もう今から楽しみでしょうがないです!!」と語る参加者もいた。

参加者の面談内容は共通して、「機材の選定」「調査方法」「振り返り」「表現方法」についてであった。調査を実施する際のカメラやマイクの選び方から、フィールドへ入ったときのカメラの設定や置き場、手振れの問題など、実際に撮った映像とテーマを振り返りながら議論が進んだ。質感が表れるような映像を制作したいと考えている参加者は、一眼レフカメラと三脚を用いた撮影を計画していたが、調査協力者がカメラを気にしているためにやりづらさを感じていた。一方で、調査協力者がカメラに対して持っていた緊張感が、10分という短い時間で和らいだと語る参加者もいた。また、調査協力者の生活音をどのように映像に反映させるかについての相談も多かった。調査協力者と移動しながらリサーチを進める際に、距離が離れることによって音声が小さくなってしまうことや、音質に関する心配が共有された。これに対して大橋は、環境音の音量を落として、映像の背景音として使う提案を行うなど、参加者それぞれのテーマに合わせてアドバイスをした。音楽を使わない場合は、生活音の音質の重要性が強調されるなど、制作したい映像やリサーチのテーマによって、適切な機材は異なってくる。参加者が慎重になるポイントだ。

調査方法に関しては、調査協力者の人数に関する議論があった。調査協力者が複数いる場合はつまり、その分だけスケジュールを調整することが必要になる。参加者自身が時間を取れないときには、調査協力者が個人的にできるような調査方法をデザインすることが求められる。例えばビデオを撮ってもらい、絵や日記を書いてもらうような調査方法を採用する場合は、調査協力者自身の個性が反映されやすいと考えられるが、習慣化されていないことが負担となる可能性を考慮しておく必要がある。そのため、参加者は調査協力者と相談しながらデザインをすることを心がけておくことが重要事項となる。撮りたい場面を撮ることができなかった/うまく撮れなかったと悩む参加者に、大橋は「その場面が撮れなくても、後から再演してもらうことはできる。大切なのは参加者が調査協力者の生活にどれだけ近づき、どれだけ協働して表現の可能性を探索できるかである」と語った。自分の行動によって相手の行動が変わることを危惧する参加者もいるが、リサーチをすると決めた時点で協働関係は始まっている。そこを含めたふたりの関係性をも描き出すことにも、リサーチのおもしろさがある。

撮った動画データの一部が消えてしまった参加者は、そのつらい気持ちを共有した。大橋は、この経験をほかの参加者にも共有し、データのバックアップの重要性を強調した。また、振り返りの方法についても実際のフィールドノートを参照しながら紹介した。文字で振り返りができないときは、音声やビデオでジャーナルを記録することも可能である。蓄積していくフィールドノートは、撮った映像と振り返りのリンク付けの役割にもなり、リサーチ内容を整理するための大切な素材にもなっていく。

表現方法のイメージ像がすでにある参加者もいる一方で、まだどのように表現していくかを模索している参加者も多くいた。調査協力者が気持ちを表すときに積極的に使う「オノマトペ」をどう映像に反映させるか、匂いや感覚をどう表現に落とし込むかなど、自分を調査対象者に含めている参加者からは、自分の生活世界を映像に表現する難しさが共有された。また、映像制作にあたり、映像を見る人が映像に対して「感情的なつながり」を持てるかどうかも重要な視点である。対象から距離感のある場面が多い映像は、見る人も距離感を感じるという。調査協力者の生活世界に近づいていく調査者のように、見る人もその世界に没入できるような映像構成を念頭におくことも大切だ。

参加者によって、リサーチと映像制作へ抱く悩みは様々であった。調査のペース、調査協力者との関係性など、何ひとつ同じものはない。重要なのは、調査者が映像作品のなかでどんなストーリーを描き、見る人にどんなストーリーを読み取って欲しいのか。そして調査者と調査協力者が互いに納得感を持てるか。これまで9回のスタディを通じてさまざまな表現方法の例を学んできた。いよいよ参加者全員が映像制作の作業に入っていく。

執筆=染谷めい/構成=廣瀬花衣