2019.9.19(木)

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

展覧会「家族が聞く―東京の戦争のはなし」

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身近であるがゆえに、気軽に話を聞くことが難しい領域がある「家族」という関係。この展覧会は戦争体験がどのように家族の間で語られ、聞かれてきたのか、または何が語られず、聞きこぼされてきたのかに着目し、新たな語りの生成の実践と、家族内継承という営みの検証を行うことを目的として企画された。

経緯としては、2019年2月の報告会後、かたつむりの在り方を生かして、何か実践をしてみたいという声が挙がり、6月以降本格的に準備を進めていった。その根底には、昨年のスタディで訪問した東京大空襲・戦災資料センターにて早乙女勝元さん、山本唯人さんから伺った話への応答をしたい、という気持ちもあった。
具体的に何をするかという話し合いの場では、かたつむりメンバーの柳河加奈子がスタディ活動期間中に話を聞く対象として関心を持っていた家族、加瀬家にフォーカスを当てる方向に進展。12歳のときに東京大空襲を経験した加瀬泰子さんと、その息子の俊一さん、孫の祐希さんの三世代間継承を主軸に、「家族自身が聞く」手法をつくることを目指した。

その後展覧会に先立ち、事前の打ち合わせを重ね、以下のプロセスで準備を進めた。まずは企画者(かたつむり+NOOK)が、戦争経験者の子、孫へヒアリング。そこで、子、孫が「何が聞けていないか」「どんなことを知りたいか」を整理し、戦争体験者である祖父母に対する質問票を作成した。次に、子、孫から祖母へのインタビューが行われた。この場にも企画者が立ち会い、映像や写真でその様子を記録。最後に企画者が、祖母へのインタビューを終えた子、孫へ改めてインタビューを行い、祖母の体験を語り直してもらうことと、一連のインタビューによって「何が受け取れたか」「どう受け取ったか」などを伺った。この三段階のプロセスを踏みながら、展示内容が組み立てられていった。

かくして展覧会では、どのようにしてこの展示が成り立ったのかという説明のボードのあとに、子、孫がそれぞれ祖母との関係性、自身が覚えている祖母の戦争体験、祖母に聞きたいことをまとめたテキストが掲示された。
そして子、孫から祖母へのインタビューの記録映像がスクリーンに投影され、映像内で語られた言葉をすべて文字起こししたテキストが鑑賞者の椅子の隣に置かれた。スクリーンの隣にあるボードには映像内で語られた内容を補足する資料などをまとめて掲示。最後に息子と孫が一人ずつカメラの前に座り、戦争体験をどのように聞いたのか語り直す映像が2台のノートパソコンでそれぞれ流される、という三部構成となった。
加えて、傍らのテーブルには東京大空襲に関する資料や被災体験にまつわる聞き書きの本などが並べられ、鑑賞者がさらに関心を深めるための補助線が引かれた。

展覧会期間中には柳河と磯崎未菜(一般社団法人NOOK)がナビゲーターを務めたガイドツアーと「これからの継承を考える」と題した公開会議を開催。公開会議ではスタディの活動を振り返りつつ、今回の展覧会の感想をひとりひとりが言葉にして共有し、さらに今後の実践の在り方について構想を膨らませた。
その翌日にはかたつむりメンバーの八木まどかをファシリテーターに、「家族に聞けること、聞けないことってなんだろう?」をテーマにしたてつがくカフェも開催。参加者が対話を通して考えを深める様子が伺えた。

公開会議終了後、瀬尾夏美(一般社団法人NOOK)は「大切な話を聞いてしまった人はそれを語る技術を持とうとするのだと改めて思った。語り手と聞き手が入れ替わりながら、語りという営みが続いていくのだと妙に腑に落ちて感動した」と振り返った。
「家族」という場所で普段聞けないことを聞くための技術を開発し、それを公のものとした今回の展覧会。これをひとつの契機として、「語る」「聞く」行為を拡張し、更新するための方法は、これからもその都度組み直されていくだろうと感じた5日間だった。

Text=高橋創一