2020.10.24 (土)

第5回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

身の回りの日常を他者の視点で捉え直す

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第4回で、日常に見え隠れする他者の存在に思いをめぐらすフィールドワークを行ったスタディメンバー。自らが抱える、「背景が異なる他者」に関する疑問や課題を織り交ぜながら、それぞれの視点で宿題を行った。その数例を紹介する。

最初に発表したのは、原堯。

普段は、不動産情報サイトでまち歩きマップのようなコンテンツ制作を行っている。

コンテンツをつくる際には、そのまちの行政の施策についても必ず調べているといい、まちによって「子育て」「シニア」など取り組みに特色があるという。ただ上野でのフィールドワークでは、そうした特徴が見えなかったため、宿題では、行政施策という視点でまちを散策してみた。

訪れたのは、東京ミッドタウンから東京国際歯科にかけての六本木一帯と、代々木公園から南の円山町や神泉などに至る渋谷区の2ヶ所。

「港区は外国人の地域参画に対し、かなり前向きに取り組んでいました。定期的に異文化の紹介イベントをしていたり、やさしい日本語を使った情報発信などもしています」

「一方で渋谷は、ウェブサイトを見ると、多文化共生を打ち出しているものの、具体的な施策はあまり載っていません。でも代々木公園では海外文化を楽しめるイベントが開催されていたりして、民間が力を入れている印象でした」

続いて、まちで撮影した写真を見せつつ、「港区は、フィリピン人向けの国際送金サービスやポケットWi-Fiの事業者などの店が結構あり、六本木で稼いで実家に送金し、帰国する、というような流れが見てとれました」と分析。また渋谷については「韓国語や中国語の表示は一切なく、3カ国語で表示されていたのは、松屋のメニューだけだった」と紹介した。

ウェブメディア編集者の宮原朋之は、新小岩駅周辺でフィールドワーク。
いつも誰かが駅前の段差に腰掛けていることに気がつき、定期的に同じ位置から写真を撮って定点観測した。

ヒジャブを被った人や、毎日必ずいるサラリーマンらしき男性など、多種多様な人が座っていることがわかり、「自分も缶ビールを片手に座ってみた」という。

「すると、夜も照明があるから明るいんです。温もりがあって、これが座っている人の心理なんだろうなと(実感しました)。通っていく人々を眺めていると、気持ちが安らいできて社会の一員になっている気がしてきました」。

宮原によれば、新小岩界隈は最近、海外ルーツの人が多いそう。

「南口商店街の路地に入ると、日本人に人気の立ち飲み屋があり、隣にはハラル食品店があります。でも2つは全くの別世界で、立ち飲み屋がハラルフードを使って料理をつくることもなければ、ハラルの店では日本語が通じない」

「そこからさらに逸れると、飲食店街があり、パブやスナックが入る建物を抜けていくと、ネパール人がたむろしていました。さっきまでワイワイ話をしていたのに、私が近くに行くと会話をやめてじろりと見てくる。距離は近いのに、日本人と外国の方が明らかに分けられた世界で暮らしている。そこをどうにかできないのかなと思っています」と語った。

一方で、近くの焼き鳥店では、また別の景色が見られたことも紹介。
「フィリピンや中国の方などが、日本人に混じって焼き鳥を食べていました。店内には、フィリピンのお客さんが以前持ってきたお酢が調味料として置いてあったりして、生活空間のようでした」と振り返った。

全員が発表を終えると、今後のスタディで何に取り組むか、どんなメディアをつくりたいかを一人一人が検討。

「広く薄くでもいいから、在日外国人の人にインタビューをしてみたい」
「私と他者をつなぐメディアをつくりたい。見ず知らずの人に出会ったときに、それが介在することでコミュニケーションのきっかけになるようなものをイメージしています」
「今、私は工場でネパールの方とコンビを組んで働いているので、そういう日常を日記に書いてみたい」
「ラジオや交換日記のような、相手の話を聞いた分、自分も話すというようなメディアをつくりたい」
など、思い思いのイメージを共有し合った。

この日の最後、ナビゲーターの阿部航太から、次回以降のスタディの進め方について説明。
6週間後には各メンバーがトライアル作品を発表する予定で、それに向けて各自が主体的にプロジェクトを進められるよう、3人ずつの分科会を作成。
全員が一堂に会するのではなく、分科会メンバー間で自主的に集まったり、意見を出し合ったりしながら取り組みを進めてもらいたい、と伝えた。

次回第6回は、映像人類学者の川瀬慈(いつし)さんを招き、映像を中心にメディア表現の手法を学ぶレクチャーをひらく。
これまで、背景の異なる他者について知識で学び、さらにフィールドワークを通して体で学び得ようとしてきたメンバーたち。次は、思考の具体化という新たなステップに進む。

Text=鷲見洋之