2020.12.19 (土)

第8回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

トライアル作品制作でメンバーたちが得たもの

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第8回はメンバーがひとりずつ、この1ヶ月でどんな試作品をつくったか発表。作品の意図や、作品づくりに挑戦してはじめて得た学び、苦労などを共有した。

メンバーたちが披露したのは、動画や音声、イベントの告知チラシなどさまざま。

大学生の横山尚子は、同じ寮に住むパキスタン出身の知人にインタビューを行い、記事を作成。インタビューでのやりとりを中心に、書き手による導入文や、関連写真も加えて作品に仕上げた。

横山は、企画の趣旨を「大学の話、将来の話、恋バナのような日常的なラフな話をすることで、『パキスタンと日本』という枠組みではなく、ひとりの人間同士の共通性や違いに焦点を当てたかった」と説明。

反省点として、「文化的な背景に焦点を当てたくはなかったが、やはり結婚や人生観のような話を聞けば、文化背景の違いについての話題も出るのは当たり前。そこで自分の知識不足で相手を不快にさせたらどうしようと不安になってしまった。インタビュー中は、不安になっても、思い切って話を掘り下げてみることが大事だと感じた」「いくらラフなトピックのインタビューでも、相手の文化的背景に関して自信が持てるまで本を読むなどして知識をつけておくべきだった」と話した。

また恋愛についての話のなかで、つい「え、パキスタンでは今でもお見合いしているの?」と口に出したことを「すごい失礼だったな」と振り返ったが、それを聞いた別のメンバーからは「でも僕からすると、逆にそれはとても率直な文化の違いの描写だなと感じた」などの意見が上がった。

また宇都木大樹は、2019年から2020年にかけて香港で行われた大規模デモに関する自身の思索と、友人に取材した内容を文章にまとめ、デザイン制作ソフトを使い、作品に仕上げた。

宇都木は「背景の異なる他者」と自身との関わりについて考えながらも気持ちの整理がつかず、なかなか行動を起こせなかったことや、友人に取材をしようと決めるに至った経緯などを作品のなかで告白。

「友人の話をひたすらに聞くことで、長い間友人をしていたのに知らなかったけれど その友人のなかの大切な部分について知ることができた。」

「危機の中で多くの人がデモをしている姿に(自分が)どういう姿勢でどういう関係性を持てばいいのかはまだ整理できていない。」などとつづった。

また取材対象の友人は、パートナーが香港人であるといい、
「自分のパートナーや自分がインターンしていた国が戦場のようになったり、同じ年代の人々が苦しむ姿が悲しい」

「自分が日本でこう生活しているのも申し訳なく感じる時もある」

「いま私にできることはSNSの投稿しかないけれど、後悔しないためにやっている。(中略)ふと自分なにしてるんだろうとか、もっとしたいことあるんじゃないかなって思ってしまう」などの声を紙面で紹介した。

宇都木は、紙の作品にした理由について、インターネットのような「(自分が発信した情報の拡散を)コントロールし切れないメディアのかたちには慣れていない」とし、「政治的なトピックだったということもあり、フィジカル(物理的な)のものをつくることを目指した」と解説。

作品内では、友人への取材をきっかけに、関連の展示会に足を運んだことも紹介しており、「自分が香港情勢を知ることでどう行動につながったのかを書くことで、この記事を受け取った人も、そのプロセスを追体験できたらいい」と狙いを語った。

全員の発表の後は、「web」「紙媒体」「イベント」のなかから自身が今後取り組みたいプロジェクトを1つ選び、3〜4人ずつのグループに。お互いのプロジェクトについて助言を送り合い、この日のスタディを終えた。

スタディも残すところあと4回となったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、満足にフィールドワークや取材などができていないメンバーも少なくなく、それぞれのプロジェクトの完成形はまだまだ見通せない。

だがナビゲーターの阿部航太は、「残り4回で完璧なものをつくりましょうというのは無理な話なので、それは一旦諦めましょう」と、焦る必要はないと強調。

むしろ「今日皆さんのトライアル発表を聞いていて、スタディ期間内にすべて終わらせてしまう、というものではないプロジェクトもあってうれしかった」と語った。

トライアルで何か方向性を掴んだメンバーもいれば、逆に袋小路に入ってしまったという表情のメンバーも。試行錯誤はまだまだ続く。

Text=鷲見洋之