2021.9.12 (日)

第3回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

第3回 【スタディ1】「恋」を翻訳する/触れる/伝え合う

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(実施風景がスライドショーで流れています)

前回のスタディから2週間後の9月12日(日)、ことばの研究者で全盲の藤本昌宏さんをゲストに迎えた第3回のワークショップが実施された。
第3回のテーマは「恋」。

・あなたが自分の恋を自覚する瞬間は?
・あなたが恋しているもの、恋をしそうなものを3つあげてください。
・なぜひとは恋をすると思いますか?
・恋という概念やことばのない世界になったら、あなたはその現象をどう名付けますか?

事前に藤本さんからこうした問いが投げかけられており、メンバーは恋について考える9月を過ごし始めていた。
また、当日は「自分の恋にまつわる思い出のもの、自分の恋を表せる何らかのもの」を持ってきてほしいともアナウンスされていた。

<ペアと待ち合わせ>
ワークショップの開始時間は13時。だが藤本さんからのリクエストで、この日はランダムに組まれた相手と秋葉原駅近辺で待ち合わせをし、いっしょに会場まで歩いてくることになっていた。
ペアごとにSlackで待ち合わせ場所や時間を相談して、合流。「恋の装い」をしてくるペア、待ち合わせしやすい服装を選んだペア、何かしら所縁のある場所をめぐりながら会場へ向かったペアなど、出会い方やその時間の過ごし方はさまざまだったようだ。

<アイマスクをつける>

(アイマスクをつけて部屋に入る)

会場に着くと、廊下でナビゲーターの和田と岡村からひとりずつアイマスクを渡される。着用したらナビゲーターの腕を持ち、何も見えないまま席へと誘導。イスの輪郭をなぞってかたちを確かめた上で着席すると、全員が揃うのを静かに待った。

「今日は恋について、ゆっくり考える時間にできたらなと思います。1時間半くらいアイマスクをつけたままになるので、不安になってきたとか、お手洗いに行きたいなどあれば挙手で教えてください」
と、ナビゲーターの和田が説明すると藤本さんにバトンタッチ。

「藤本昌宏といいます。普段は大学院生として英語教育や言語学を研究しています。研究のかたわら、いろんなことにもチャレンジしています」
「わたしは生まれつき目が見えません。光や色、みなさんの顔や服、髪色を見たことがないです。今日は恋というテーマではあるんですけど、この後みなさんにも試してもらう触ることや聞くこと、匂いを嗅ぐこと、食べることを大事にして生活しています」
そう自己紹介をすると、藤本さんの進行でワークショップが始まった。

<触察を体験する>
「恋」のテーマに入る前に、触る活動の練習として「触察」を体験してみてほしいと藤本さんはいう。
メンバーひとりひとりの手に、和田と岡村によって何らかの植物が渡された。

「視覚障害者の界隈や支援学校などでは、ものを触りまくることを“触察(しょくさつ)”といいます。植物を触ってどんなことを発見したか、話していただきたいです」


(植物を触察)

それぞれ手渡された植物を撫でたり摘んだり、取りこぼしがないように繊細に、慎重に、ゆっくり触っていく。(一方、記録映像で見た藤本さんの手は隈なく手際良く手のひらや指先を使い、貪欲な手つきで触っている様子が印象的だった)

しばらく触察した後、それがどんな植物だったのか、気づいたことや発見したことを伝え合う。

「こんなに繊細にものを触ったことがなかったので、壊してしまうんじゃないかと感じました」
「頭はフワフワしていて、長い、30本くらいある。筆みたいな感じ」
「めっちゃ短い、手のひらくらい。みっつくらいが束になってる」
「蕾のなかに葉っぱか花びらかわからないけど、やわらかくて生きてる感じのものがある。色は紫っぽい」
「家の前にある植物と同じ匂いがすると思った」
「受け取ったときは何か道具のように感じたけど、だんだん触っていくと花びらがしっかりしていた。匂いも確かめたくなった」
「ずっと触りたいわけでもないし、触りたくないわけでもない。揺らすといい音がする」

探るようなその説明からは、触り続けるなかでかたちだけでなく感触や匂い、音なども微細に感じ取っていった様子がうかがえた。触り心地について、似ている感触のものに例えて表現するひともいれば、結びついた記憶をことばにするひともいた。

一周したら今度は隣のひとに持っている植物を手渡す。
先ほどと違う植物が手元にやってくると、その違いに驚き、聞いた話が実物になったことをおもしろがり、ことばの数も増えていく。

「これ好き」「知ってるやつかも」「さっきより圧倒的に植物」「確かに猫みたい」「食べられそう」

手のひらだけでなく腕や頬など、接触領域も広げていく。
次々に隣からやってくる植物を別のものに例えたり、オノマトペで表現したり、好き嫌いで答えたり、音楽的な表現をしてみたり。感覚をことばでわかちあう触覚のおしゃべりは尽きることなく続いた。

一通り触れた後、「どんな冒険をしましたか?」と藤本さんが尋ねると、
メンバーの大塚は「博物館においてある標本を、いつもは写真や絵のような一面的なイメージなんだけど、今日はじっくり丸く、立体的に見てるような感じがします」と答えた。

ウォーミングアップのはずが、気づけば45分が経過。
「かなり時間の流れが変わるなと思いました」と、次の準備を始めながら和田が話すと、

「そうなんです。視覚的な要素って全部がいっぺんに目に入ってくるので、伝わってくる情報量が多くて効率がいいんですが、視覚情報が遮断されない状況で触察をすると見えてるものに負けちゃうんです。でも、目を閉じて触ると、得られる情報や考えることが一気に変わってくるから、時間の流れが変わると思います」と藤本さんは答えた。

また、「視覚障害の方は毎日欠かさずに行うもの。いまやってもらったことを理科とか社会の授業としてやる学校もあって。動物の骨を触る授業をやっている学校もあったりします」と、触察についての補足も加えた。

<恋を翻訳する>

(恋の翻訳作業)

次は、この日のメインワーク「恋を翻訳する」こと。
メンバーたちの囲むテーブルには、日用品から流木、スポンジ、金属、石、粘土まで、あらゆるかたちや用途、材質のものが並べられていた。
メンバーは恐る恐る自分の近くにあるものを手に取り、自然と触察を始める。

「先ほどのように、机の上でいろいろな冒険をしてみてください。ここにあるものと持ってきてもらったものを使って、考えてきてもらった“恋”を翻訳してもらいたいです」
「そして、ひとりひとりの恋を触ってみる、ということをやりたいと思います」
と、和田は説明した。

そこから約20分間、「恋」の翻訳作業にそれぞれが取り組む。

「ゴム系の何かあります?」「マラカスみたいな音のやつ取ってください」「さっき手元にあったザルってまだありますか?」「このフワフワってもっとありますか?」

自分の「恋」のイメージに近い素材を具体的にリクエストするメンバーもいれば、そこにある素材の触察を通して、自分の恋のイメージそのものを探求しながら組み立てるメンバーも。まさに手探りで「恋」をかたちづくっていく。
手に取りやすいように和田と岡村はメンバーの手元に素材を近づけたり、必要な道具があれば手渡すなどフォローに回っていた。
植物の触察と打って変わってことばは少なく、ビニールがこすれる音、金属音、何かが転がっていく音など、さまざまな音が空間に響いていた。

<メンバーの「恋」を触察する>
それぞれの「恋」が完成すると、ひとりずつできあがったものに触れていく。
翻訳の結果生まれたものは、ひとつのオブジェになったものもあれば、ブランケットのようなものを肩にかけて体感するもの、音を発するものや匂いを取り込んだものなど、そのかたちも触れ方もさまざまだ。
和田と岡村が手渡したり、アテンド役になってその場所まで誘導したりすることで、メンバーはそれぞれの「恋」に触れていく。

「恋のかたちは最初からイメージがあった?」
「複数の恋の集合体? ひとつの恋?」
「恋の初期ですか? 中間?」

など、触れたひとからはその「恋」についてさまざまな質問が。
そうした質問に答えつつ、つくり手は自分の「恋」を説明していく。そのひとのやわらかいところに触れるテーマだからか、より感覚に近く、伝わる言い方を探るようにことばをつむいでいっているように感じられた。

はじめはひとりの「恋」の話に全員で耳をかたむけていたが、徐々にそれぞれが別のひとの「恋」の作品に同時進行で触れたり、対話をしていけるように展開。
本人から聞く「恋」のエピソードと作品を結びつけて、さらに触察を深めていく。そのなかでは、ことばと感触が結びついて会話が盛り上がる様子も見られた。
気がつくとまるでパーティー会場のような、打ち解けた空間ができあがっていったように思う。

すべての作品に触れたひとからアイマスクを外し、触察で触れた植物や「恋」の作品を目で見る。「思っていたより小さい」と、見ずに触れていたときとの印象の違いに驚いているひとが何人も見られた。
また、藤本さんが持参していた点字の日本地図に興味深く触れるメンバーもいた。

あっという間に終了時間を過ぎ、この日はこれで終了。
「次回9月22日(水)にも藤本さんにご参加いただくので、その日に恋の話の続きをできたら」と和田が締めてこの日は解散した。

「触れる」ことを通して「恋」について考え始めたわたしたち。いや、「恋」を通して「触れる」ことを考え始めたともいえるかもしれない。この日触ったさまざまなものの感触とそれぞれのなかで生まれた思いを手に、10日後の共有会に向け、帰路についた。

(恋の翻訳作品より)

動画:
撮影 塚本倫子(フォトグラファー)

Text=齋藤優衣、阿部健一