2022.3.6 (日)

振り返り会 

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

「わたし」と「あなた」とスタディ1

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3月6日(日)、2021年度のスタディ1最後の活動がROOM302(3331 Arts Chiyoda)で行われた。集合時間は11時。途中にお昼休憩が設けられており、各々昼ごはんを携えて集合した。

この日は、スタディ全体の振り返りをワーク形式で実施。ナビゲーターの和田とスタディマネージャーの嘉原が制作に携わった冊子『つたえる、うけとる、つたえあう ー interpret 新たなコミュニケーションの在り方をみつけるために ー』(アーツカウンシル東京、2021年)、その一部である「コミュニケーションカード※」をワークの補助線として用いて、スタディ1の経験を振り返りながら、各々のまなざしてきたことや考えてきたこと、生まれたものや現在地を描き出そうと試みた。
(※コミュニケーションの違いや認識のずれを体感しながら考えていくためのカードセット。「伝える」をめぐる28種の問いかけで構成されている。詳しくは上記冊子をご覧ください)

まず、机の上に「わたし」と「あなた」(大事なひと、家族、展覧会に来てくれたひと、届けたいひと、大事なもの、etc)、「スタディ」、「展覧会『happening.』」、「つくったもの」を、自分にとっての関係性やイメージを考えながら、図やことばで書いていく。スタディ全体のタイムラインも何らかのかたちで書き込む。
次に、コミュニケーションカードをメンバーが1枚、1枚引いていく。そして、そこに書かれたことば・問いかけから浮かんだことや考えたことを、どんどん図に加筆する。
こうしたやり方で「わたし」と「あなた」、その間の「伝える」を枠組みに、ひとりひとりの内側にあるスタディ1の経験や実践のイメージを表していった。

[コミュニケーションカードに書かれていたことば・問いかけ]
つたえる芯の部分/生まれゆくことば・表現/直接の対話/つたえるメディア/伝え合いのゴール/「水脈」の運動法則/思考のための言語
(コミュニケーションカードに書かれたことばを軸に、スタディの振り返りに適するかたちに和田が補足・読み替えながら用いたため、冊子に書かれているつかい方とは多少異なる)

「それでは、頭のなかのツアーに出かけましょう!」とナビゲーターの和田。
描いた図を解説するようにして、ひとりずつスタディを振り返っていく。
聞いているひとは描かれた図の周りに集まり、感じたことをふせんに書き、話しているひとの図のそばに残していく。

お昼休憩を含め、振り返りは3時間にわたって行われた。

「このスタディでは目で見えないものを、鼻や耳や皮膚で体験することがたくさんあって。“料理を食べる”も全身で味わう行為だから、全身で味わえるからだや環境をつくりたくてアウトプットしたなって。この世界に生きている限り、全身で世界とか社会を感じたい、むしろちょっと溶け合いたい。そういうメディアをつくりたいっていつも思っている気がします」(水野)
「自分の“窓”がいくつも開いていて、普段見ている世界はそこを通してみているんだなということが見えてくるとき、おっ、と感じた。スタディではその“窓”をいくつかふさいでみることも多くて、そのことでここに“窓”があったんだってことや、この“窓”からこういう景色が見えていたんだって気づくこともあった」(二瓶)
と、ワークショップを重ねるなかで得た気づきや変化についての話もあれば、

「(「わたし」と「あなた」の間でさまざまな糸がつながろうとする絵を指しながら)やってみてわかったのは、結び目は試みようとするもののなかにあるというか、試みている時点で半分結べているというか」(柳原)
「踊らなくてもいいって思ってたけど、結果的に考えていることはからだがあって見えてくるものだなと思って。そこに行き着くことに、自分で気づけて良かった」(境)
「最初に“考えたい”って思ったときと、いままさに“考えている”ってときは違うなと思っている。自分は考えたいな。考えて、目の前で起きていることに意味とかを見つけたいなって」(大塚)
というように、「つくる」に向き合ったことで自分自身の考えをより深めていったことについての話もあった。

メンバーと同じように、ナビゲーターや運営チームもこの一年を振り返った。

「自分のからだで気づいたり発見したり考えたりしたこの数年のことが、みんなのからだを通して、なにか積み重なった感覚があって。それはわたしがゲストと重ねた時間とはまた別の時間として育っていくこととか。それがわたしの“伝える芯の部分”、フニャフニャではなく柔軟という意味でここに置けるものというか、信じられるものだったなと思って」(和田/ナビゲーター)
「何日までに何々をくださいと連絡することが多かったので、時間についてけっこう考えていました。“36時”をつくっちゃえば一応締め切りを破っていないことになるけど、次の日の0時から12時を削っていることでもあり、それが健やかなのかは別で。作品づくりの種までは時間をかけたのに小屋入りは3日間ということとか、社会との調整やチューニングみたいなところがもうちょっと違う構造であるといいんだろうなって思うけど、それはなんなんだろう。あと、スタディという環境じゃなくなったときに、そういうことをどれだけ自分が大事にできるか。ずっとせめぎあいです」(木村/運営)
「わたしはひととの会話がすごく少なくて、ものをつくるのにすごく時間を費やすから、誰かと話す時間が多いことがいままでない経験だった。だから、辛いことでもあったけど・・・みんなといて、わからないこともいいし、悩んでいることもいいと思えた、かな」(岡村/ナビゲーター)

などと、それぞれの立場で感じていたこと、考えていることが語られた。

聞き手はじっと耳を傾けつつ、手元のふせんでペンを動かす。会話以上に、サラサラとペンを走らせる音、それによって際立つ静寂が印象的だった。
ふと、誰かが「卒業アルバムみたいですね」といって笑いが起きたが、比喩ではなく、実際にこれはひとつのおわりで、始まりなのだろう。

「決めたこと。ものをつくる、服をつくることに根を張りながら、ひとが来れる場をつくる。わたしはわたしでいて、誰かが来てくれたらどうぞとできる場所をつくりたい」(岡村)

全員の話が終わる頃には15時30分を過ぎていた。事務連絡を済ませて順次解散。ひとり、またひとりとROOM302を後にした。

このスタディのテーマは何か。何に取り組んでいくスタディなのか。

記録担当として8月から伴走するなかで、実は、筆者は繰り返しこの問いに直面していた。もちろん、どのようなまなざしで何に取り組んでいくのかはメンバー募集のテキストやナビゲーターメッセージに端的に書かれている。だが、そのことばを実感をもって捉えることが一筋縄でいかないと感じていた。

感覚、共在、共創、身体、思考、かかわり、コミュニケーション、表現、伝える・・・。

スタディ1を取り巻くこれらのことばをわたしは知っている。だが、ゲストの感覚世界との出会いやメンバーとの対話、ナビゲーターのふたりと話す時間を重ねるたびに、そのことばの意味や奥行き、想起される光景が変化していった。それぞれのことばの先にある未知の豊かな領域に誘い込まれるようであり、またその場所に自分の足で立つための鍛錬の時間がスタディでもあった。
だからこそ、その都度、テーマと取り組みの意味や奥行きをアップデートして、自分なりの理解・解釈を深めていく必要があった。

それはスタディ1メンバーも同じだったのだと、この日、それぞれの振り返りの言葉を聞きながら感じていた。わたしたちはスタディという場で時間をともにし、一団となって歩いてきた。だが、同時に、ここはひとりひとりの探求の場でもあり、それぞれが自分なりのスタディ1を探り続け、揺れ続けていたのだと思う。振り返りで垣間見たのは、そんなひとりひとりの探求の先に広がる世界だった。

メンバーの大塚は、振り返りのなかで次のような話をしていた。
「みんながそれぞれ話していて、内容がつながっているのかつながっていないのかわからない。だけど何かつながっているような気がするのってどういう感覚なんだろうと思ったときに、内容の一貫性というより、“考えている”という動作の一貫性なんじゃないかと思って。みんながそれぞれの視点からバラバラのことを話している、その内容はつながらないけど、聞いて、考えているのだけは確かというのがいますごく実感としてある」

また、メンバーの二瓶も次のようなことを話していた。
「それぞれがそれぞれのことばを話していて。わからない部分がほとんどなんですけど、そのなかでたまに同じことばを話す瞬間がある気がして。その瞬間が交わったとき、でもそのなかで同じことばじゃない部分があったとして。その差異の部分だけが自分のなかに取り込まれるというか、変容するような気がしていて。逆にいうと、同じ文脈を共有していない部分はたぶん全く接することができていなくて。その差異の部分が新しいものを産む力になるし、違和感にもなるし、それこそが“あなた”の存在だなとすごく思った」

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「“わたし”というそのひとが立たないと、共に在るとか共につくるということが語り合えなくなる。馴染みすぎたり溶け合いすぎてしまうと、何かに引っ張られてしまったりするんだなと。このスタディはひとりひとりのわたしが立っていて、そのひとからなにかが生まれたときに波紋のように広がっていって、ほかのひとの波紋と重なっていったとき、なにか共創の新しいありかたが生まれたりするのかなと」(嘉原/スタディマネージャー)

わたし」と「あなた」。その間の「伝える」ということ。
このことがスタディ1の起点であり、着地点だったのだと思う。

記録者が何度も立ち戻ったスタディ1のメンバー募集のテキストを最後に置いておきたい。
この記録を最後まで読んでくださったあなたには、ここからどういう情景が浮かぶだろうか。
そこにはどのような「わたし」と「あなた」がいて、「伝える」をめぐるどのような問いがあるだろうか。

text=阿部健一

写真:阿部健一、木村和博(2枚目のみ)