2021.8.22 (日)

第2回-1

場所:STUDIO GEM GARAGE

【スタディ1】無意識の身体を意識する

1/7

第1回のスタディから4日後の8月22日の日曜日、パフォーマー・アーティストの南雲麻衣さんをゲストに迎えた第2回のスタディが行われた。南雲さんによるゲストワークショップは次週も続くため、第2回-1と位置付けられている。
ワークショップのテーマは、
「無意識の身体と手話する思考の身体のあいだで翻訳を考えてみる」。

集合時間の9時50分、会場である中野富士見町の地下のスタジオにメンバーが続々と集まってくる。先日Zoomで「自己紹介」をしたものの、お互いの顔を見ていないため顔と名前が一致しない。また事前に「動きやすい服装でお越しください」「上は白色など薄い色(ベージュもOK)」という案内があったため全員が同じような格好をしていて、ひとりひとりの特徴も少しばかり捉えにくかった。どことなくよそよそしい雰囲気のなか、換気ダクトの音がゴウゴウと鳴る空間でワークショップが始まった。

「南雲麻衣といいます。文化センターの仕事をしています。企画やワークショップを考えたり、イベントを開催したりしています。自分個人の活動としてはダンサーだったり、パフォーマンスとか、舞台や映像に出たりしています」と、手話通訳の田中結夏さん(舞台人・舞台手話通訳・手話通訳者)が通訳する。ワークショップは南雲さんの手話を田中さんが通訳するかたちで進められた。南雲さんは田中さんに視線を合わせて手話を伝えるため、田中さんは南雲さんの対角線上や、話しかけている相手のそばに移動しながら通訳をしていた。(以降の南雲さんの発言は田中さんの通訳を元にしている)

「18歳までわたしは手話をしてこなかったんですね。耳で聞いて生活してきて。18歳から手話を覚えました。そのときは補聴器を外して音がなくなったんですけど、『静かな身体』『無音のからだ』ということを経験したんです。今日のワークショップでは自分のからだを見つめ直していただいて、その違いはなんだろうとか、自分のからだで何に気づくんだろうとか」
南雲さんは続けて、「まだ自己紹介はしません」といった。この後のワークのなかで「名前」を扱っていくそうだ。

「からだのくせはありますか?」車座になり、南雲さんはまず全員にそう尋ねた。

「わたしは電車でつり革につかまっているとき、からだが動いちゃう。ストレッチしてしまいます」と自らのくせの話をした後、メンバーもひとりひとり話をしていく。
自動ドアのところでひとを避けてドアにぶつかったときにドアに謝ってしまう、伸びをしたとき手をパーにしがち、首を振ってうんうんと頷きがち、腕まくり、帰宅してすぐ家族のすねに触る、動かしたことがない場所を探している、など。

ひとりが「無音のからだに興味があります」と話したことを受けて、南雲さんは「無音のからだって何かとよく聞かれるけどうまく答えられない。わたしは3歳半から聞こえなくなり、そのときまではみなさんと同じでした。踊っているところを見たダンサーの友だちからは『真冬のキーンとした冷たさ』『重くて硬い空気』『空気が凍っているイメージ』、そんなことばをもらうことが多いです。そういう身体感覚に近いのかもしれません」と答えた。

立ち上がり、次のワークは「からだで自己紹介」すること。

「肘とかどこでも、好きな場所をひとつ決めて。自分の名前を正確に相手に伝えるイメージでやってみたいです」といいながら、南雲さんは足で自分の名前を空中に書いた。
円になり、まずは一斉にやってみる。肘や足首、肩、合わせた手のひら、おしりなど。小さく描くひと、しゃがんだり伸ばしたりするひと、パキパキと書くひとや流れるように書くひとなど。南雲さんはそれらを見てまわりながら声をかけていった。

今度はひとりずつ。先ほどはフルネームを書くひとや漢字で書いたひともいたが、今回は「下の名前をひらがなで」というルールに統一。見ているひとは名前を当てることになった。

横並びになり、ひとりずつ前に出て自分の名前を空間に描く。静かな空間で文字を描くからだを全員でじっと見る。足や肘の動きを指でなぞるひとも。(さあどうでしょう?)と南雲さんがボディランゲージで回答を促す。・・・「ゆかりさん?」、正解すると静寂を割ったようにわーっと喜びの声と拍手が鳴った。またそのとき、「拍手の手話。聞こえないので、これが基本です」と、南雲さんは両手のひらをひらひらと動かす「拍手の手話」をみんなに共有した。

「次は、羊になってもらいます」と、次のワークの説明が始まる。

内容は、全員よつんばいになって目をつむり、誰かひとり指定された羊飼いが手を鳴らす方向に進むというもの。羊飼いは目を開けていて良くて、動きながら手を鳴らす。「羊たちはその音を頼りに動いてください」。

バラバラの羊たちがもぞもぞと動き、徐々にかたまりになっていく。
1分半ほどで終了。「怖かったですか?」という投げかけから手短に感想を言い合った上で、羊飼い役を変えてもう一度やってみることに。
同じように始まるが、途中で手を鳴らす音が2方向から聞こえてくる。明らかに羊飼いがふたりに増えていることを感じつつ、終了。

「ふたりいたんですけど、わかりました?」と、南雲さんが問いかけると全員が頷く。
羊飼い役は「途中、もうひとり羊飼いが増えて、最初は自分の牧場の羊を持っていかれる感じがしたけど、羊を誘導させる時間だと思ったら面白かった」「すごく懐いてくれた羊がいた」など、誘導する立場で感じたことを共有した。また目を開けて全体を俯瞰していたスタディマネージャーの嘉原は「迷う羊という感じ。近づいてくる気配を感じて『いますよ』というのを自然に出しているひともいた」と話した。

「今度はわたしも入ります。わたしは音が聞こえませんが、でも目をつむって入ります。みなさんにはわたしがうまく羊飼いのところに行けるように誘導してほしい」と、南雲さん。
多くが「どうしたらいいのだろう」という顔を浮かべつつ、3回目がスタート。

4分ほど羊の時間を過ごし、その後、何が起きていたのか、何を感じたのかをシェアすることに。「初めに感じたのは、誰かが手を鳴らしてくれたこと。それを頼りに近づいて、誰かわからないけどぶつかった。すぐそのひとを頼りにしてついて行った。たくさんからだがあった気がする。もしかしたらわたしがセンターでみなさん取り囲んでくれていたのかな?」と南雲さんが話すと、それぞれが感想を口にした。

「南雲さんかわからないけど誰かに触れたときがあって、“南雲さんかもしれない”と思って。歩幅を合わせるように歩いた」
「さっきは個別な気がしたけど、ひとに当たると押しながら一緒に行こうという瞬間があって、ついて行こうという気持ちが芽生えた。仲間みたいな」
「わざと大きく音を立ててやった」
「足音を立てているひとがいて、南雲さんが教えてくれているんだなと思って足音出してるひとをサポートしていた。目を開けたら拓海さんだった。あはは。思いっきり勘違いしていて恥ずかしかった」
「わたしと他人だけじゃなくて、わたしの近くに誰かがいる感じ。家族ができた、みたいな」
「わたしは違うひとか同じひとかというのを意識していなかった。それがびっくり。みんなでうまくいけばいいかなと」
「音も聞こえないし目も見えない。どうやって伝えればいいんだろう。だけど振動は伝わるんだなって」

それぞれのなかに生まれた気づきを反芻しつつ、小休止。わっと輪が崩れて、ふーっと息をはくような休憩の合間は、水分補給をしたり、床に貼っていた養生テープを剥がしたり、ぽつぽつと立ち話も生まれたり。各々の時間を過ごしていた。

「次はドッヂボールをします」

南雲さんは黄色いやわらかいゴムボールを持って声をかけた。6人ずつのチームにわかれてテープで区切られた陣地に入り、基本ルールを確認した上で試合開始。

多くのメンバーにとって久しぶりのドッヂボール。手に汗を握りながらボールを投げたり、避けたり、受け止めたり。

熱戦の末に勝敗がつくと、
「今度はいまの流れをボールなしで再現してもらいます。誰からもらって、どうかわして。動きを全部再現してください、表情もです」と南雲さん。

どうだったっけ・・・と不安げな表情を浮かべながら、探り探り見えないボールを投げ合っていく。試合の熱は引き、「こうだったよね?」とアイコンタクトで確認しながら。ときにはボールが受け取られずに消えることもあった。

どうにか試合を終わらせると、チームを変えてもう一度ボールありでやるという。「さっきのように流れを覚えてくださいね」と南雲さんはいった。
先ほどの試合以上に、自分のからだと試合の流れに集中しながらボールを投げ合う。そして、再現。流れや動きを覚えるように意識したはずなのに、やはり探り探り。だが、1回目よりも「みんなで再現しよう」という意識を感じたようにも思う。

あっという間に時間は経ち、この日はここまで。最後に、南雲さんから「来週に向けて宿題を出すので考えておいくださいね」と予告があり、初回のワークは終了。
生身に居合わせ、動きを意識した2時間のワークショップを通して、わたしたちは何に出会ったのだろうか。この日もSlackには続々と研究日誌が投稿されていった。

(会場の床に残った痕跡 撮影:大塚拓海)

動画:撮影 塚本倫子(フォトグラファー)

Text=阿部健一