2021.8.29 (日)

第2回-2

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

視覚身体言語の世界へ

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第2回-1のちょうど1週間後の8月29日(日)、パフォーマー・アーティストの南雲麻衣さんによる2回目のゲストワークショップが3331 Arts ChiyodaのROOM302で行われた。
この日までに「なまえのないモノの写真を20枚撮って送る」という宿題が南雲さんから出されていて、メンバーはそれぞれの解釈で写真を撮り、事前に送っていた。

集合時間が近づくと、3331 Arts Chiyoda ROOM302に続々とメンバーが集まってくる。
部屋に入ってすぐ、こう書かれた看板が立てられていた。

「視覚身体言語の世界へ ようこそ」

看板のそばには南雲さんが立っていて、張り紙を読むように促す。
読み終わったら、喉に鍵をかけ「声」を南雲さんに預けた。ここから先は、視覚身体言語の世界。
スタディマネージャーの嘉原から口元の見える透明なマウスシールドを受け取ってマスクとつけかえ、手話で会話をするナビゲーターの和田や岡村、南雲さんのかたわら、「声」のしない部屋で定刻を待った。

※この日のゲストワークショップは、ほぼ視覚身体言語=身ぶり手ぶりや表情で進行したため、ここから先の記述は当日かわされた視覚身体言語を記録者がそのように読み取った、という解釈をもとに書かれている。
ただし、参考資料としてナビゲーターに共有されていた南雲さん作成の進行表は確認している。

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(集まってください、テーブルを囲みましょう)

南雲さんがそう伝えると、全員で中央のテーブルを囲む。

南雲さんは、輪になったひとりずつと目を合わせ、指差した後、(わたしを見てください)と自分自身を指差した。南雲さんが右手をあげ、(みんなで)と促す。みんなも真似をして右手をあげる。今度は右手を頭にのせる、右手をすべりおろして頬に添える。全員そうする。

こうして「伝え手の動きを真似するワーク」が始まった。

南雲さんはその手を丸めて、隣にいたひとに「なにか」を手渡した。手渡されたひとは伝え手となり、メンバーは伝え手の動きを真似していく。そうして動きを伝えたら、伝え手は見えない「なにか」を隣のひとに回していく。

見えない「なにか」は、手渡されていくなかでかたちを変えていった。大きくなったり、細長くなったり、風船のように膨らませてみたり。蚊のようにふわふわと飛び交ったりと思ったら、車になって走り出し、最後は列車が出現し、全員で乗り込んで部屋のなかを練り歩いた。

(次はテーブルの上を見てください)

テーブルの上には丸や三角、波、形容しがたいかたちをした大小さまざまな紙のピースが散りばめられている。

南雲さんが指先でなにかのかたちを描き、(これはどれでしょう?)と伝える。わかったひとがそのピースを指差すと(正解!)、そしてみんなで(「拍手の手話」)。
順繰りに、伝え手の指先が描くかたちを読み取り、受け手は伝えたいものを探していく。どのピースかという以上に、描く速さ、伝えるときの姿勢、目線が指先を追っていたり、というひとりひとりの「描き方」や「描くときのからだ」の違いにも心を寄せる時間だったように思う。

次に、複数のピースを組み合わせたかたちを伝えていく。丸の上に三角がある、など。今度は当てる方も手を動かし、(ひとつめはこれじゃない?)(これでどうですか?)と、受け手同士や伝え手の目を見て確かめる様子もあった。

(今度はふたつのグループにわかれます)

南雲さんは輪を半分に割り、それぞれ一列に並べた。先頭のひとにだけお題が印刷された紙を見せ、順々に後ろに伝えていってほしいという。視覚身体言語の伝言ゲームだ。
ルールを飲み込みきれず(?)という顔をしているメンバーもいたが、(とにかくやってみよう)と南雲さんが促してスタート。

これまでのワークと同様に指やからだの動きでかたちを伝えていく。お題がひとの顔のような組み合わせだったので、(頭の横に半円!)のように自分の顔もつかいながら伝えるひとも。伝え終えたひとは、順々に伝わっていく様子を頭を抱えたり、身悶えしながら見守った。
最後に受け取ったひとはそれをテーブル上のピースで再現。

そして答え合わせ。「ああー」(あちゃー)(なるほどね)(え、どういうこと?)、いろいろなニュアンスを乗せた感嘆の音と笑いがこぼれる。南雲さんは(確認してみましょう)と促し、いつ、どこでずれたのかを検証。(このピースがこの動きだったのね)(すみません、僕がずらしました)などなど、声のない笑いが起きていた。

気がつくとこの頃には、「○○をしましょう」「こうですか?」という意思疎通への緊張感はなくなっていたように思う。このメンバーで伝え合う「リズムや速度」を共有し始めていたのかもしれない。

小休止をはさんで再開。南雲さんは手を鳴らし、集まってほしいということを気づかせた。休憩の間に、それぞれの撮影した「なまえのないモノ」の写真がテーブルにたくさん並べられていた。

(これからひとりずつ、自分の撮った「なまえのないモノ」を動きやかたちで伝えてほしい)

見ているひとには、それがどの写真かを当ててほしいという。
最初にふられたひとは、全身の動きでなにかの状況を伝える。(「これですか?」)と、写真を指差す。(正解)。すると南雲さんは、写真のそばにホワイトボードマーカーで「これはどこで?」と書いた。ほかのひとにもマーカーを渡し、それぞれ写真にまつわる質問を書いていく。撮影者は、身ぶりや文字で質問に答える。
そうして、「なまえのないモノ」をめぐる対話が始まった。

例えば、鼻のような突起がついたナスの写真を見て「おいしい?」「どこで手に入れた?」という質問が。撮影者は手触りや、炒めて食べたこと、味わいを身ぶりやことばを書いて答える。
ルールがわかってくると、徐々にテーブルの上にはことばがあふれていった。このひとにとってこれは「なまえのないモノ」だったんだなぁと思いを馳せながら、「尋ねる・答える」というコミュニケーション自体を楽しむような時間が流れていた。

続いてのワークは「触ったものを身ぶりで伝える」。
この日、部屋には日用品や毛糸、円柱や四角のカラーブロックなどが、本棚の上に置かれていたり、天井から吊り下げられたりしていた。
南雲さんは全員に目を閉じるよう伝え、部屋に散りばめられたものからひとつ選び、数人の伝え手に手渡した。

南雲さんがものを元の場所に戻したら全員が目を開ける。伝え手は触れたものがどういうものだったかを伝え、受け手は探す。凹のかたちをしたカラーブロック。ゴムのブラシ。おもちゃのピストルなど。伝え手はかたちだけでなく、手触りや硬さなども工夫しながら伝えていた。
伝え手本人も手にしたものを見ていないので、「あ、こういうものを触ってたのか」と、小さく驚く様子も見られた。

「最後のワークは複雑なので説明します」

と、「声」の鍵を一時的に返された和田が南雲さんの説明を手話通訳する。

「(指で人形をつくり)これが自分だとして、ペアになって(日用品や立体物が点在する)この小さな世界に冒険に出てください。イメージとしては2055年のまち。まずは自分の家を探します。そして、ペアと出会って家を決めて、共同生活を始めます。そのときふたりで日常のワンシーンを演じてください」

部屋のあちこちでシーンづくりが始まる。ホワイトボードをつかった筆談や身ぶり手ぶりでコミュニケーションを図る。どんどん指を動かして互いに探るペアもいれば、じっくり筆談をするペアもいた。

その後、1組ずつ発表。
床を広くつかう、本棚のなかを移動する、吊られたものを飛び移っていく。ふたりでボールあそびをしたり、一緒になってゆらゆらゆれたり、洗濯をしたり。小さな世界で、相方やものと戯れつつ、さまざまな出会いと日常が演じられた。指先だけで表現が難しい場合は、指先と全身を行ったりきたりするペアも。手指の細やかな表現が大冒険に見えるイマジネーションの世界をみんなで味わう時間となった。

「12時になったので、今日はこれでおしまい」
と、再び南雲さんの手話通訳で和田が話す。

「前回は無意識のからだ。今日は視覚身体言語で頭のなかのイメージを翻訳してもらいました。みんなのからだの違い、表現の違いがおもしろかったです。手話はひとりひとりすごく違いがあって、頭のなかのイメージがそれぞれ違う。伝える、という試行錯誤のからだが変わっていくのを感じました」。

そう話した後、最後に「視覚身体言語で伝えるために大切な五箇条を書いてほしい」といって全員に紙を配った。裏には、例として南雲さんの五箇条が書かれている。

一、ウケテ(受け手)の身体を尊重すべし
一、目は合わすべし
一、手はしっかり点と線を残して描くべし
一、ウケテとツタエテの“ちょうどいいぬるま湯”を探すべし
一、ウケテを恐れずにとことん飛び込むべし

濃密な2時間のワークショップでは、「わたしはこう理解したのですが、どうでしょう?」というお互いの理解の状況を確認し合う姿がたびたび見られた。手話ができないひとの多い今回の集まりでは、その行程が欠かせなかったように思う。ひとつひとつのワークでも、やっていくなかで内容がわかってくるという順番だった。それゆえに流れていた時間があり、コミュニケーションがあり、さまざまな発見やアイディアがあった。
声の鍵は、発話を封じる鍵であると同時に、コミュニケーションのエンジンをかけるキーでもあったのかもしれない。

書き終わったひとは声の「鍵」を返され、解散。視覚身体言語の世界を後にした。

動画:
撮影 塚本倫子(フォトグラファー)
編集 齋藤優衣

Text=阿部健一